虹魚三部作 あとがき 

 
       「地球の記憶」、「虹魚の伝説」、そして「虹魚の夢」の3つが、
       『虹魚』三部作です。
       これらは、地球、生命、文明という名の破壊がテーマです。

       本編では、虹魚の謎がなぞのまま残ってしまいました。
       気になる方もあるかと思いますので、ここで種明かしをして
       おきたいと思います。

       まず、虹魚です。
       すでにお気付きだと思いますが、虹魚とは地球のことであり、
       虹魚の本当の姿とは、地球の姿そのものです。
       ですから、虹魚の記憶は、地球の誕生とともに始まっていま
       す。
       七色のオオサンショウウオとは、もちろん虹魚のことであり、
       月の呪いによって虹魚となった地球は、自分の無力を呪い、
       自らの意志によってオオサンショウウオに化身し、地底の湖
       でうつうつと夢を見つづけているのです。        

       ジャイアント・インパクトによって、宇宙へと飛びだしたマントル
       の一部や地殻などが集まって、やがて新しい天体、月を作り
       ました。
       誕生したばかりの月と地球との距離は、現在の半分ほど。
       その月の巨大な引力によって、海の干満の差は10mを越え
       たといわれています。
       この巨大で絶対的な月の引力に揺さぶりつづけられたことが、
       生命誕生の大きなきっかけになったと考えられています。
       やがて、その生命たちは地球の環境を自らのために変えて、
       また自らを環境に合わせて弛まず進化を続け、全海洋蒸発
       や全球凍結などを乗り越え、そしてながいながい、はるかな
       時間をかけて、私たちに至ります。

       40億年かけて進化した生命が文明を築き、文明の進歩の
       名のもとに、地球を急激に蝕んでゆく。       
       言うまでも無く、私たち人類の歴史、そして文明の歴史とは、
       殺戮とともに、地球と地球環境の破壊の歴史でもあります。
       常にエネルギー源を求め、破壊をつづけてきたのです。
       文明は、ひとつの森林を破壊しつくすと、新たな森林を求めて
       移動し、そこでまた新たな破壊を始めます。
       いちど破壊されてしまうと、森林は保水力を失い、土壌を流出
       して不毛の地へと変わり、再び元には戻ることはできません。
       もちろん、破壊された生態系も再生されることはありません。

       西アジア。地中海のほとりで発生した文明は、やがて地中海
       沿岸の森林を破壊しつくしてヨーロッパ大陸へ移動します。
       ヨーロッパの森林を破壊しつくして新大陸へ、そして森林から
       石炭、石油へとエネルギーを求めて渡り歩いたのが、文明の
       歴史の実態なのです。
       この過程の中で、いったい、どれだけ多くの命の系統が絶た
       れて行ったことでしょう。

       すなわち、地球を破壊しつづける生命を誕生させることを助け
       た月。この月の誕生を、虹魚は月の呪いと呼んでいるのです。
       「授けられた巨大な力=呪い」です。
        
       40億年に渡り、連綿と蓄えつづけられてきた化石エネルギー
       資源は、間もなく食いつぶされ、枯渇することでしょう。
       そのとき、私たちはいったいどこへ行くことになるうのでしょう。
       そして、その後はどのような道をたどることになるのでしょう。

       ヒトには、もう遺伝子レベルの大きな変化は起こらないだろう
       と言われています。繁栄しすぎて、進化を忘れたヒト。
       進化に変わるヒトに残された唯一の道は、技術の進歩だけだ
       と言われています。
       しかし、自然によって、そのヒトの技術の進歩が追い越された
       とき、繁栄の頂点から絶滅への道をたどった多くの生命の姿
       が重なります。

       そして、その時は、もうそう遠い未来の話ではないのです。

                                    2004.12.25

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