ウウェペケレ(昔話)V 『かわうそ』

                      
  むかし、コタン(村)のはずれに、ピリカメノコ(美しい娘)が一人で住んでおった。
  ある夜、そのメノコ(娘)の家(チセ)に、一人の男が忍んで来たんだと。
  そして、それからは毎夜毎夜、この男がメノコのところへ来るようになったさ。
  すると、メノコは日一日と顔色が悪くなり、やがて骨と皮ばかりに痩せてしまった
  んだそうだ。
  
  近所の者が心配してメノコの家へ行ってみたら、なんとも言えない悪臭がして、
  それは、とても我慢ができるものではなかったんだと。
  「きっと、何かウェンペ(悪い者)が、メノコの魂を取ろうとしているにちがいない」と、
  かわるがわるメノコの家で番をすることにしたが、あるものは殺され、あるものは
  魂がぬけた様にされてしまったんだと。
  この話を聞いた英雄ポノオタシツウンクルは、弓と毒を塗った矢を持ってメノコの
  家に行った。
 
  やがて、夜が深けた頃になって、メノコの家に近づく者の足音がしたんだと。
  ポノオタシツウンクルがすかして見ると、男が入り口のアパロッペ(莚戸)をそっと
  上げて、中の様子をうかがっていたが、するりと家の中に入ってきた。
  人間の様に見えたが、しかし四つ足だったんだ。そこでポノオタシツウンクルは、
  弓に矢をつがえてブンと放ったんだと。  
  すると男は「ギーギー」と奇妙な悲鳴をあげ、アパロッペを蹴破って逃げていった。

  朝になって外に出てみると、血のあとが点々と川の方へ続いていたんだと。
  川筋に沿って探して行くと、よどみの流木の上に、獣の死骸が引っかかっている
  ので引き上げてみると、それはポノオタシツウンクルの毒矢に射抜かれた大きな
  かわうそだったんださ。
  
  ポノオタシツウンクルは急いでメノコの家へ戻り、弱りきっているメノコの着物を
  みんな脱がせて体をすっかり洗わせると、前の様に元気なピリカメノコに戻った
  んだと。

  そしてポノオタシツウンクルは、家の中の悪臭は、かわうその小便の匂いで、
  それを嗅ぐと弱い人間は死んでしまうし、強い人間でも気が変になったりする
  もんだと、みんなに教えたんだとさ。

  ※この話、どこかで聞いた話だな〜と思われる方もあるかも知れませんね。
  かの陰陽師の中の「黒川主」のお話に、とてもよく似ています。
  私は、陰陽師で「黒川主」の話を読んでびっくり。すぐこの話を思い出しました。
  でも、紛れも無く、これは北海道の民話の中にある、お話のひとつなんです。


    HOME | LIBRARYU-TOP   
 

Copyright© 1989-2006 nijio All Rights Reserved.