にじお版 近未来イソップ物語 『北風と太陽』

痴れ者「にじお」の近未来偽イソップ物語  『北風と太陽』

 
  北風と太陽が、どちらが強いかで言い争った。そして、旅人の服を早く脱がす
  ことができた者を勝者とすることにした。
  まず北風が、あらん限りの力で旅人に風を吹きつけた。しかし、激しい風の
  ために、旅人は、よけいマントを身体にぴったりと巻き付けた。とうとう、北風
  は諦めた。
  次に、太陽がやった。太陽はにわかにに輝きだし、旅人は、このぽかぽかの
  日差しを感じると、一枚一枚と服を脱いで行き、やがて、暑さに耐えかねて、
  裸になった。

 
 

  それからずいぶん経ってからのこと。また、北風と太陽が争った。
  「この前の勝負のリベンジだ」
  「受けて立とうじゃないか、今度も私の完勝に決まっているさ」
  「じゃあ、勝負は前回と同じ。旅人の上着をどちらが早く、上手く脱がせることが
  出来るかで決める。それで文句は無いだろうな」と、北風。
  「ああ、望むところさ。悪いが、また勝たせてもらうよ」と、太陽はいいました。

  「前回は僕が先だったから、今度は君が先にやるべきだ」と北風が言いますと、
  「どちらが先にやったって、結果は同じことさ」と、太陽が応じました。

  ちょうど良い具合に、向こうから厚い上着を着た一人の男が道を辿って来ます。
  さっそく、太陽は厚い上着を着た旅人に向かって、陽光を降らせます。
  すると、旅人は、なぜかいやな顔をして襟元をぎゅっと閉じました。
  「おや、ちょっと光が弱かったかな」と思いながら、太陽は、パワーアップをして
  熱波を降らせますが、コートを脱ぐどころか、旅人は姿勢を低くします。まるで
  それは、太陽から少しでも遠ざかりたいという様子にもみえます。
  それならばと、太陽は、ますますパワーアップして強烈な熱波を降らし続けます。
  高い空を飛んでいた鳥が、尾羽を焦がして落ちてきますし、ついには一面の木々
  が、つぎつぎと炎を上げ始めました・・・
  それにもかかわらず、旅人はますます体をかがめ、襟元だけでなく、すべての
  隙間をきっちりとかたく閉じて、ついにしゃがみこんでしまいました。

  「おかしいな、こんなはずは・・・」と、太陽がつぶやいたとき、北風が言いました。
  「もう、そのくらいで止めないと地上は燃え上ってしまう。さあ、今度は僕の番だ」
  北風は、まず軽く冷たい風を吹かせてみました。すると男は、少しホッとした様な
  顔で空を見上げました。
  それに気を良くした北風は、力を込めて寒い北風を吹き付けました。
  男は、明らかに気持ち良さそうに立ち上がり、さらに両腕を大きく広げました。
  北風は、こんどは持てるだけの力を込めて、寒い寒い北風を思い切り吹き付け
  ました。
  すると、旅人は立ち上がって、思い切り良く厚い上着を脱ぎ捨てました。
  とても小型ではありますが、上着の中にはバッテリーやポンプのようなものが
  見えています。

  「ああ、気持ちが良い。21世紀初頭の人間たちが努力を怠ったために、気温の
  上昇は止まらず、今では中空繊維の中に冷却水の流れるこの生命維持装置が
  無ければ、外出することも出来きゃしない。改良されてずいぶん軽くなったとは
  いえ、旅をするときに、長くこんなものを着ていると気が滅入ってしまう。
  しかし、生まれて初めて屋外でこれを脱いだが、肌に風を感じるというのは昔話
  で聞いたよりも、はるかに爽快なものなんだな。
  いつか、この生命維持装置を使わなくても外へ出たり、子供たちが外で遊んだり
  する時代がやって来ると良いのだが・・・」
  二酸化炭素がたっぷり溶け込んで、どんよりと黄ばんだ、重たげな空を見上げ
  ながら、男はつぶやきました。

   
   結果なんて思うほど定かなもんじゃない。状況が変われば、あっさり逆転
   だってあるってこと。
   状況を把握し、チャンスを狙っていた北風と、奢る太陽の差かもね。
   小さなところからコツコツ・コツコツとCO2の削減をして行きましょうね。

 

                                       2005.12.01

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