新ぶたパンダの冒険 X : M-W 『北風と太陽』

                       
 
   一斉にワームホールが開き、勢い良く飛び出したところは真っ白の世界です。
  上も下も分かりませんが、冷たくはありません。ふわふわでふかふかと柔らかく、
  とても心地よいところでしたので、みんなはスリスリと頬ずりをしてしまいました。
  
  「とても気持ちが良いけれど、ここはどこ」 
  「周りには、何も見えないね」
  「こんな、何も無いところで、いったいどんな任務があるのだろう」

  す〜っと、ふわふわ真っ白の地面が動いて、切れ間から地上が見えました。
  「うわ〜、じゃあここは空の上だ」
  「そうか、ここは雲の上だったんだね」
  「あ、だからちっとも甘くなかったんだ・・・」
  どうやら黒くんは、頬ずりのついでにちょっとだけなめてみたようです。

  「いったい、雲の上で何が起こるんだろう」
  「雲の間から、豆の枝がするすると伸びてくるとか・・・」
  「ジャックと豆の木?」
  「でも、それにしては雲の上に大男の住むお城が見当たらないし・・・」  
  「それもそうだね」
  「何が始まるのだろうか・・・」

  と、そのときです。空の上の方から大きな声が聞こえて来ました。
  「この前の勝負のリベンジだ」
  「受けて立とうじゃないか、今度も私の完勝に決まっているさ」
  「じゃあ、勝負は前回と同じ。旅人の上着をどちらが早く、上手く脱がせることが
  出来るかで決める。それで文句は無いだろうな」
  「ああ、望むところさ、それで結構。悪いが、また勝たせてもらうよ」
  どうやら、北風と太陽の声の様です。

  「前回は僕が先だったから、今度は君が先にやるべきだ」と北風が言いますと、
  「どちらが先にやったって、結果は同じことさ」と、太陽が応じました。

  ちょうど良い具合に、向こうから厚い上着を着た一人の男が道を辿って来ます。
  さっそく、太陽は厚い上着を着た旅人に向かって、陽光を降らせます。
  すると、旅人は、なぜかいやな顔をして襟元をぎゅっと閉じました。
  「おや、ちょっと光が弱かったかな」と思いながら、太陽は、パワーアップをして
  熱波を降らせますが、コートを脱ぐどころか、旅人は姿勢を低くします。まるで
  それは、太陽から少しでも遠ざかりたいという様子にもみえます。
  それならばと、太陽は、ますますパワーアップして強烈な熱波を降らし続けます。
  高い空を飛んでいた鳥が、尾羽を焦がして落ちてきますし、ついには一面の木々
  が、つぎつぎと炎を上げ始めました・・・
  それにもかかわらず、旅人はますます体をかがめ、襟元だけでなく、すべての
  隙間をきっちりとをかたく閉じて、ついにしゃがみこんでしまいました。

  「おかしいな、こんなはずは・・・」と、太陽がつぶやいたとき、北風が言いました。
  「もう、そのくらいで止めないと地上は燃え上ってしまう。さあ、今度は僕の番だ」
  北風は、まず軽く冷たい風を吹かせてみました。すると男は、少しホッとした様な
  顔で空を見上げました。
  それに気を良くした北風は、力を込めて寒い北風を吹き付けました。
  男は、明らかに気持ち良さそうに立ち上がり、さらに両腕を大きく広げました。
  北風は、こんどは持てるだけの力を込めて、寒い寒い北風を思い切り吹き付け
  ました。
  すると、旅人は立ち上がって、思い切り良く厚い上着を脱ぎ捨てました。
  とても小型ではありますが、上着の中にはバッテリーやポンプのようなものが
  見えています。

  「ああ、気持ちが良い。21世紀初頭の人間たちが努力を怠ったために気温の
  上昇は止まらず、今では中空繊維の中に冷却水の流れるこの生命維持装置が
  無ければ、外出することも出来きゃしない。改良されてずいぶん軽くなったとは
  いえ、旅をするときに、長くこんなものを着ていると気が滅入ってしまう。
  しかし、生まれて初めて屋外でこれを脱いだが、肌に風を感じるというのは昔話で
  聞いた以上に爽快なものなんだな。
  いつか、この生命維持装置を使わなくても外へ出たり、子供たちが外で遊んだり
  する時代がやって来ると良いのだが・・・」
  二酸化炭素がたっぷり溶け込んで、どんよりと黄ばんだ重たげな空を見上げ
  ながら、男がつぶやきました。

   
  「目が点」
  「びっくりしたね」
  「ほんとう、思いもかけない展開ってあるもんだね」
  「でも、なんだか、とても勉強になった気がするよ」
 
  「でも、初めての経験だね。雲の救急車で出動したり、雲の消防車で駆けつけ
  て、夕立で消火なんてね」
  「鳥たちを救助して、木や草の火を消して・・・、あら、スス?顔、まっ黒」
  「これは、生まれつき!」 
  さすがに、双子の白ちゃんと黒くん。ぴったり息の合った掛け合いです。
  「巨大くんの夕立にはびっくりしたね。あぶなくみんな流されるところだったよ」
  「最初の出動のときは、加減が分らなかったから・・・」

  ワームホールが開くのを待っていると、「まだ時間があるようだ。雲の上で少し
  だけ遊ぶといいよ。ただし、あまりはめをはずさないように」と、あのマリオネット
  隊長の声が聞こえました。
  「やった〜!」と、さっそく大はしゃぎです。
  雲のひげとまゆげで、「頭がたか〜い!」と、巨大『黄門様』になる巨大くん。
  雲で羽と輪を作って、にっこり微笑む『天使』の姿の白ちゃん。
  金斗雲を作って、「お師匠様〜」と、『孫悟空』になりきるぶたパンダ。
  おや、黒くんは薄く雲の中にもぐりこんで・・・、きんつば!ですか、さすがです。
  鬼ごっこやかくれんぼうで、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
  これは内緒ですが、巨大くんは、勢いが余ってつい雲を踏み抜いてしまって、
  ずいぶんあわてたようですよ。ふふふ
   
   こうして、時空レンジャーの第四のミッションも、無事に成功したようです。 
   めでたしめでたし

  
イソップなので、おまけに教訓を・・・
    その1.結果なんて思うほど定かなものじゃない。状況が変わってしまえば、
         あっさり逆転することすら、ちっとも珍しい話ぢゃないよということ。
         状況を把握しチャンスを狙っていた北風と、奢る太陽の差かもね。
    その2.こんな世界にならない様、小さなところからコツコツ・コツコツとCO2の
         削減の努力をして行きましょうね。

 

                                       2005.12.01

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