にじお版 近未来イソップ物語 『敵同士』

痴れ者「にじお」の近未来イソップ物語 『敵同士』


   互いに相手を天敵だと思っている二人の男が、偶然、同じ船に乗り合わせた。
   出来得る限り離れていようと、一人は船尾、一人は船首にそれぞれ陣取った。
   やがて、激しい風が吹き荒れ、嵐で船に沈没の危機が迫ったその時、船尾の
   男が船員に聞いた。
   「船尾と船首、どちらが先に沈むのか」
   船員は答えた。
   「きっと、船首が先だろう」
   すると、男はこう言った。
   「それなら、死も苦痛ではない。奴が先に死ぬのを見られるのだからな」



   近くでそれを聞いていた、一人の客が大声で叫んだ。
   「おーい、船は船首が先に沈むぞ〜、船首のみんな、こっちに逃げてこ〜い」
   それを聞いた、船首にいる客たちは、慌てて船尾へと向かった。すると当然の
   ことだが、船の重心が変わり、今度は船尾が先に沈み始めたのだ。
   すると、男はつぶやいた。
   「なんてことだ。これでは、俺の方が先に死に様を晒してしまうではないか」

   ところが、そのことに驚いた客たちが、一斉にまた船首の方へと走ったのだ。
   またもや船の重心が変わり、今度は、船首が先に沈み始めたのだった。
   男はつぶやいた。
   「よし、その調子だ。もう二度とこちらへ来るなよ。愚か者どもめ」
   そのとき、タイミングよく船員が怒鳴った。
   「みんな動くな〜。変に動くとバランスが崩れて、一気に船が転覆するぞ〜」
   それを聞くと、あわてて客たちは走るのをやめた。
   男は、ほっとした表情でつぶやいた。
   「いいぞ。船首のほうが人が多い。やはり、奴の方が先に死ぬ」

   と、思ったのも束の間。違う場所からも浸水が始まったらしく、徐々にではある
   が、船尾の方から先に沈み始めたのだ。
   男はつぶやいた。
   「なんてことだ。乗船の時、俺は船首に行こうとしたが、先に奴が船首にいた。
   やむを得ず船尾に乗ったのだが、やはり、遅れを取ったことが失敗だったな。
   ああ、俺の一生の不覚だ」

   そのとき、船底の方で小さな爆発音が響いた。
   ついに船上はパニックになり、客たちは、もうだれひとり船員の静止を聞く者も
   なく、ただ右往左往するばかりだった。
   すると、うんざりした顔で男は言った。
   「ああ、もうどちらでも良い。早く、どちらから沈むのかを決めてくれ。これでは、
   船が沈むより前に、ストレスで俺は死んでしまう」


   何も好んで、自らストレスを作り出すことなど無いではないか。なっ、ご同輩。
   ぐだぐだと、一人だけストレスをためてないで、この先をどうするのかを考える。
   のんびりのほほん。分かっちゃいるけど・・・、ってか?

                                             2006.08.29

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