ぶたパンダの冒険W 『ふしぎの海』

 
       遠足のおやつは、ちょっと焦げのある鯛焼きです。おなかとしっぽ。
       これは、なかなかむずかしかったけれど、なかよくみんなで分けて
       食べました。

       ・・・あっ、突然、足元の地面が一瞬にして消えてしまいました。
       「ガボッ!、ガボガボッ!・・・」、
       「うわ〜、水の中だ〜!」、「く、くるしい〜」、「息がつづかない」、
       「もう、だめだ〜」、「・・・・・」、「あれ、海のなかなのに息が出来
       るぞ!」、「えっ、あれ〜、ほんとだ」、「な〜んだ」、「ははは」
       おぼれないことがわかったら、もうすっかりいつものペース。
       さあ、元気に歌いながら、海の探検に出発です。

       「タコのはっちゃん、やつあたり。イカのとうさん、とんちんかん」

       「こんなイカしたおれたちがトンチンカンだと?」と、ぷりぷり肩を
       いからせながら、ヤリイカの兵隊がやってきました。
       「おまえたち、海の王様からのしょうたい状は持っているのか?
       持っているならさっさと出せ。持っていないならとっとと帰れ」と、
       大きな声でいいました。
       「ぼくたちは、しょうたい状を持っていません」と、ぶたパンダ。
       
       「くじらは海のほうき星、へなちょこ魚はのみこむぞ!・・・」
       どこかで聞いたような歌をうたいながら、ゴーゴーとくじらの
       隊長がやってきました。隊長は、まっこうくじらです。

       「なに、しょうたい状を持たずに、ずうずうしくやってきただと?
       なら、さあ、とっとと帰れ!でなきゃ、ひといきにのみこむぞ!」
       「ぼくたち、帰り道がわからないんです」
       「なんだと?・・・」

       「せいしゅくに!」
       そこへ、ふわ〜りっと、静かに大きなマンタがまいおりました。
       まるでうそのように、ヤリイカもくじらもピッとしせいを正しました。
       マンタは、海の大臣なのです。

       「王様から、海の世界をご案内するようにいわれて来ました。
       どうぞ、私の背中にお乗りください。」と、静かにいいました。
       そして、大きなマンタは音もなく静かにとびたちます。
       「すご〜い」
       もちろん、背中の上のみんなだけは大さわぎです。
        
       太陽の光がさんさんとふりそそぎ、たくさんのストロマトライトから
       酸素がこんこん生まれる、太古からの入り江。
       しんしんとマリンスノーがふりつもる、神秘をたたえた漆黒の海淵。
       高温高圧の深い海底で生命を生み、もくもくと育んだといわれる
       奇跡の煙突ブラック・スモーカー。
       満月のあと、世界中でいっせいにはじまるさんごのさんらん。
       もう、かんげきしてしまって、だれひとり声もでません。        
        
       北の海では、コンブ・ランドのコン太くんやクリポンと遊びましたし、
       ラッコやいっかくとも、なかよく泳ぎました。

       「こんどは南の海に向かいます。少しゆれますから、しっかりと
       つかまっていてください」
       すると、ゴー・・・っと大きな音と、強い力にぐいぐいひかれました。
       どうやら、深層海流にのったようです。

       「海流は、冷たい北の海や南の海と、赤道の暖かい海の温度差を
       少なくするように、おだやかな海を保つために、地球の生み出した
       すばらしいしくみです」と、マンタが言いました。

       みんなは、「地球って、本当にすごいんだな」と、思いました。

       高くけわしく、果てなく連なる海嶺を越え、深い深い海溝を渡って、
       ぎしぎし南へ進みます。
       いろとりどりの魚が群れる、さんごの森。枕状熔岩やマンガン団塊。
       メタンハイドレードも見えます。

       「あのメタンハイドレードは、巨大なマントルの上昇をきっかけにして
       いっきに溶けだし、地球に急激な気温上昇を引き起こしました。
       その後には、1億年間にも渡って低酸素濃度の時代をもたらし、数え
       切れないほど多くの生命を絶滅させたのだといわれています。
       便利だと思われるものでも、ひとつ扱いをまちがえると、取り返しの
       つかない結果を引き起こすこともあるのです」と、
       マンタは静かに言いました。

       「・・・」
        
       どこへ行くのか、長〜くのびる海底ケーブルも見えています。
       頭の上をザトウクジラの家族が、北へ向かって飛んで行きます。
       クジラたちは、上陸した生命の中から海へと帰った、ただひとつの
       動物です。        
         
       あそこを行くのは・・・ウーミンのようです。ウーミンは、6億年も前の
       エディアカラ生物群の姿を、いまも持ち続けている、とてもとても古い
       一族のまつえいなのです。
       「わー、ビックリ!」、ウーミンがひらひらとおよぎはじめましたよ。

       むこうには、ホヤッチも見えています。ホヤッチの一族のオタマボヤ
       は、脊さくを持ち、脊椎動物の共通の祖先に近い姿を持つ、これも
       また、古〜い一族のまつえいです。
       おや、あちらに見える沈没船を調査しているのは、タッコイ博士では
       ありませんか。タッコイ博士は、体内にニハイチュウという生き物を
       宿しています。この生き物は10億年も昔、多細胞の生物が地球に
       現れた頃の姿を、いまにとどめているのだそうです。

       「海って、ほんとうにふしぎなんだね」と、ぶたパンダがいいます。
       「ほんとうに海って、すごいんだね」と、黒くんもいいます。
       「海って、なんてすてきなんでしょう」と、これは白ちゃん。
       みんなは、前よりももっと海が大好きになりました。 
        
       おや、小さな海底火山がさかんに活動しているのが見えて来ました。
       ここは、ハワイ島の南の海。どうやら、あれはロイヒ(のっぽ)のよう
       です。さかんに溶岩を吹きこぼしています。少しずつすこしずつ、気の
       遠くなるような長い時間をかけて、ゆっくりと成長しているのですね。
       あと数千年か数万年もすると、海面に顔を出して島になるそうです。
       みんなは、新しい島がつくられる様子まで見られて、もう大満足です。
        
       「たのしかったね」、「いろんなものを、いっぱい見られたね」、「また、
       こられるといいね」と話し合いながら、大きなハマグリがはきだした、
       大きな蜃気楼を渡って、なかよく帰りました。
       近衛のタチウオたちが、すらりすらりとやってきて見送ってくれました。   
        
       じゃあね、まったまったまったまったね〜!
 
                                       2004.12.06-2
 
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