ぶたパンダの冒険Y 『風になった日』

 
        今日の風は、ふるふるるとやさしく、とてもよいかおりがします。
        みんなは口をあけて、風に向かって走ります。風がおなかの中に
        もくもくと入ってきます。それでも、ぐいぐいぐいぐい走ります。
        
        だんだんとうめいになって、なんだか風になったような気がしました。
        
        「あれ、地面があんなに下のほうに見えるよ」
        「わー、ほんとうだ」
        「ぼくたち、空を飛んでいるよ」
        どうやら、ほんとうに風になったようです。

        「あ、あそこの色が、なんだかうすくなっているように見えるよ」
        自然と、体がそちらのほうにうごきます。
        なんだか、いままで見えなかった、空気の動きが見えるように
        なったみたいです。
        「あ、あっちにすきまができたようだよ、それー」
        みんなは、そっちに向かって、いっせいに走ります。
        「お、こんどはそっちにすきまだ、ぴゅー」
        その方に向かって、みんなでいっきに走ります。
        どんどんどんどん走りますが、だれもちっとも疲れません。
        「ざー」、砂ぼこりがまいあがりました。みんなのいきおいで、
        小さなつむじ風がおこったようです。

        木の葉をゆさぶり、風鈴をさがしては、からころりんと鳴らしました。
        あ、ごめんね。つい、バトミントンのシャトルをけとばしてしまいました。
        たんぽぽの綿毛だって、わんさかいっぱい飛ばしましたよ。

        「さあ、こんどはどこへ行こうか」
        「どこか、できるだけ遠くの国へ行ってみたいな」
        「わたしは、うんと高い空の上までいってみたいわ」
        「ようし、遠くて高いところ」と、みんなで念じてみました。

        目をあけてみると、ここはさんごの白い砂浜です。真っ青な空
        と群青の海が、どこまでも続いています。
        真っ白な入道雲が、むっくりむっくり、いくつもいくつも、高〜く
        わき上がっています。
        おや、ゆらりっとみんなのからだが持ち上がりはじめました。
        どうやら、ここでは風は真上にむかって吹いているようです。
        ゆっくりゆっくり、どこまでもどこまでものぼってゆきます。
        「なんだか、ここらはずいぶん暑いね」と、巨大くんがいいます。
        
        水蒸気が集まって、わくわく雲ができて行きます。ここでは、
        水蒸気から大気へと、熱の受け渡しが行われているようです。

        「やい、おまえたち、みなれない顔だな」と、いせいの良い声
        が聞こえました。
        赤い髪で、ガラスのマントをはおった少年です。
        「おまえたち、大じゅんかんは、はじめてかい」といいました。
        「大じゅんかんって、なんですか」、黒ちゃんが聞きます。
        「なんだ、そんなことも知らずにここに来たというのかい」

        「ぼくたちは、風になったのも今日がはじめてなんです」
        と、みんなは声をそろえていいました。

        「大じゅんかんは、大ぜいの風たちが協力しあって暑い空気と
        冷たい空気を入れかえることさ。そうしないと、赤道のあたりは
        暑くなるばかりだし、北極や南極は冷えるばっかりで、地球は
        とても住みにくい星になっちまうだろう」

        「あ、マンタさんが言っていた、海流と同じだ」と、思いました。

        「風になったばかりじゃ、大じゅんかんは、きっとまだむずかし
        いね。北極までは八千九百ベェスターもあって、ずいぶん遠い
        からね。そこまで、休まずにず〜っと走りつづけるんだ。
        それに、極渦のヘルマン大佐につかまると大変にやっかいだ。
        とうぶん、そこから出ることができなくなってしまうからね。
        ぼくなんかは、こんどで5遍目の大じゅんかんさ。こんどだって、
        きっと上手く行くさ。大じゅんかんを5遍やってくると、そりゃあ、
        ぼくたちの世界じゃあ巾がきくようになるのさ」

        「それじゃあ、もうなんでも知らないものなんて無いんですね。」

        「そうさ。ところで、もうすぐ一番てっぺんに着くよ。しっかり手を
        つないでいないと、北と南に分かれて、もう、ずいぶん長いこと
        会えないことになるからね」
        そういわれて、みんなは、あわてて手をつなぎあいました。

        やがて、空のずーっと高み、もうこれいじょう上へはのぼれない
        ところまで昇りました。雲が、みるみる水平に広がって行きます。
        かなとこ雲です。そして、ここが対流圏のてっぺんなのです。
        みんなも、ゆっくりとですが北の方へ向けて走りはじめました。

        「この上って、もう宇宙なの?」と、白ちゃんが聞きます。

        「まだまだ宇宙じゃない。この上には、オゾンくんの一族の住む
        世界があるんだ。オゾンくんの一族は、6億年も前から地球を
        守りつづける戦士の一族さ。太陽から押し寄せるウルトラ・バイ
        オレッチ
(紫外線)一族のこうげきを防ぎつづけているんだ。
        いつも上を見て戦ってきたオゾン一族だから、人間が作り出した
        アマゾネス軍団フロン
(クロロフルオロカーボン)の、下からの
        不意打ちで、ずいぶんダメージを受けて苦戦しているんだよ。
        でも、ぼくらは、そこへ行くことだって出来ない世界なんだ」

        「オゾン一族って、地底の湖へ行く途中で聞いた、地球を守って
        いる、あの大切なバリアーのことだ」と、思い出しました。
        みんなは、成層圏に行って、オゾンくんの一族を助ける方法は
        無いのだろうか、なにか手伝えないのだろうかと考えました。

        さあ、走る速度がだんだん早くなってきました。みんなは、北へ
        北へとむかって、ずんずんずんずん走ります。
        みんなのあいだも、なんだかだんだん狭くなってきたような気が
        します。
        それでも、どんどんどんどん息もつかずに走りつづけます。
        やがて、みんなの住んでいる小さな島国が見えて来ました。

        すると、ぶたパンダが赤い髪の少年にいいました。
        「僕たちの街が見えて来ました。皆さんの足手まといにならない
        よう、僕たちはここでおりて、家に帰ろうと思います」
        「そうしたほうがいいね。時間もずいぶんとかかる。その格好では
        北極の寒さは無理だろうし、もう少し慣れてからの方がいいね」と、
        赤い髪の少年もいいます。

        「では、ぼくたちは、ここから帰ることにします」
        「5度目の大じゅんかんが、きっと成功しますように」
        「また、どこかでおあいしましょう。お元気で」
        「ありがとう。こんどもきっと成功するさ。では、さようなら」

        みんなは、大じゅんかんの風の流れからはなれました。

        どんどんおりて、中ころまでおりたとき、みんなは空を見上げました。
        高い空の中に、ギラッとガラスのマントが白く光り、赤い髪が見えた
        ような気がしました。
        「あれは、風の又三郎だね」
        「きっと、風の又三郎に違いないね」
        「風って、すごいね」、「風も、すごいね」と、話しあいました。

        そして、
        「どうしたら、オゾンくんの一族は、もっとがんばれるのだろうか」
        「どうしたら、オゾンくんの応援ができるのだろうか」
        「ぼくたちには、なにができるのだろうか」と、
        考えながら、家にかえりました。

        じゃあね、まったまったまったまったまったまったね〜!   
            
                                     2004.12.10-2

 
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