心象T 『二階からメグ・ライ○ン幻想』

 
    時代(とき)は幕末、場所(ところ)は、京の都・・・
    暮色の迫る辻々を、「尊皇だ!」、「攘夷だ!」、はたまた「佐幕だ!」と、
    口々に叫びながら、段平(抜き身の刀)を振りかざした、志士たちが駆け
    抜けて行きます・・・

    ・・・とある、旅籠(はたご)。
    ふと見上げるその先は、からり障子の開け放たれた2階の窓。そこには
    団扇を手にして腰を掛ける、一人のご婦人の姿があります。
    確かに浴衣を召してはいますが、それは紅毛碧眼の若く美しいご婦人で
    ございます。
    そのご婦人が小さくつぶやき、そして、路地に目を落としました。
    「昇らない太陽なんて無いの。太陽を止めることなんて、誰にもできはしな
    いことだわ」

    夢うつつに、そのつぶやきを聞いた隣の部屋のにじお。夢中で思います。
    「太陽を止めるだって?なるほど、そりゃたしかに大変なこった・・・
    あぁ、そういえば・・・、
    昔、太陽の巡りは、もっとずっと速かったと聞いたことがあるぞ。
    起きたと思えば、すぐに夜。寝たと思えばもう朝で、人々は、大変に難儀を
    していたんだ。ってな・・・
    そこで、人々は、もっと太陽の巡りが遅くなるようにと、祈ったんだよ。
    その声を聞いた英雄マウイは、ハレアカラ(太陽の家)の山の上で太陽を
    捕まえて木に縛りつけた。そして、太陽に向かって懇々と説教をしたんだ。
    で、それからだ。太陽は、ゆっくりと時間をかけて空をめぐる様になったん
    だったな・・・
    昇らない太陽は無いが、説教は効くらしいぞ・・・」 むにゃむにゃ、グ〜
        
    「ペルリだ!、ペルリが、浦賀にまたやって来たぞ〜!」
    「黒船だ!こんどこそ黒船を打ち壊せ〜!」
    「攘夷だ!、天誅だ〜!」

    「ごーーーん!」

    暮色のさらに増して行く京の空に、鐘の音ばかりが響くのでありました。

 
   移ろひ行く時を止めることは、誰にも出来ません。うねる時代の
    波だって、誰にも止められるものではありません。
    しかし、それらにしたところで、ほんの刹那のこと。それらすべて
    のことも、ただ風の前の塵にしかすぎない。
    空に響く鐘の音は、祇園精舎の鐘の音か・・・
    諸行無常、パンタ・レイ(万物流転)だね〜。うんうん。
 
                                2004.12.30

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