落語その壱 『ワルキューレ』

 
       
まいど、ばかばかしいお噺で、ご機嫌を伺います・・・ 

      世の中には、そそっかしい人てえのが実に多いのだそうで、
      そういう人のことを、粗忽者と言うのだそうでございますな。
      ぶたパンダのオーナーズ倶楽部掲示板に、日に6回も書き
      込みをすりゃあ、そりゃあ忙しいってんで、自分のキャラクター
      「ぼやき漫才サミーズ」が、どのレースに出場するのかも確認
      しないまま投票をお願いします。とか、さらに「サイトを見てね」
      と言いつつ、URLをすっかり書き忘れる・・・、
      まあ、この作者も粗忽の見本みたいな人でございます。

      「そこつ、ここつってか〜?支笏洞爺は、国立公園ってね!
      おっ、大家さん、朝から難しい顔をして、ゆんべ何か悪い物
      でも食べたか?」 
      「おや、熊さんかい。しかし、なんだね藪から棒に・・・」
      「いえね、あんまり難しい顔をしているもんですから、つい。」
      「そうかい、実はゆうべ大家仲間の寄り合いがあってね。」
      「ああ、あの暇人倶楽部の老人部ね・・・」 
      「暇人倶楽部はないだろう、楽に見えても大家は大変な商売だ。
      店子から咎(とが)人の一人でも出した日にゃあ、大家も同罪。
      連座してお縄を頂戴しなくちゃならない・・・」 
      「大家さんが灯台で足を挫いてお縄を?そりゃ、てえへんだ。」
      「そりゃあ捻挫だろう。そうじゃ無い。一蓮托生ってえやつだ。」
      「今畜生ですか?やっぱり・・・って、話が見えねえ。」
      さっぱり噛み合わない話が、あったものでございます。

      「あきれたね。まあ、ちょうど良いから、話をもどそう。
      ほら、熊さんも知っているだろう、向こう長屋の忽平衛さん。」
      「ああ、知ってる、粗忽長屋の忽平衛さんだ。」
      「そうそう、皆がそう呼ぶ忽平衛さんだが・・・」
      「ふんふん。」
      「得意気に話を始めたんで、今度は、どんな粗相をしでかす
      のかと、皆は興味深々だ。」
      「しかし、大家さんも紳士面してて、けっこう人が悪い。」
      「人の粗相は蜜の味ってね、昔からそう言うんだから仕方が
      無い。ともかく、どんな話をするのか聞き耳を立てた訳だ。
      するってえと、それが、ワルキューレの話なんだな・・・」
      「やっぱり悪いの食べたか?どこの八百屋だ・・・、そうか、
      ボテ振りの八公だな。あっしが行ってとっちめてやる。」
      「おいおい。胡瓜の話じゃあない、ワルキューレだ。」
      「えっ、悪キュウリに中(あた)った話じゃあないんで?」
      「早とちりだ。そそっかしい人というのは、お前さんのこと
      だな。私を見なさい。何があっても泰然自若だ。」
      「そりゃご愁傷様で。大家さんは、死んだら当然地獄か。
      やっぱり、普段の行いが悪い・・・」
      「お前さんには、言われたか無い台詞だな・・・」

      「ワルキューレと言うのは、西洋の神様だ。正しく言うとな、
      英雄が死ぬ時に現われてその魂を連れ去るという・・・、
      まあ言うならば英雄専用の死神だな。来るべき最終戦争に
      備えて、英雄の魂を集めているのだそうだ。」
      「へイ・ユー!?大家さんも、なかなかハイカラだ〜。」
      「そうじゃあ無い、英雄というのは半神半人のことだ。」
      「あ〜、それならおいらも知ってる、伝統の一戦ってやつだ。」
      「阪神巨人じゃあない。半神半人と言うのはな、神の力を持ち
      ながら、人間の様に死ぬ運命を背負った人のことだ。」
      「そんなの背負っていたらあ、さぞかし重そうだ。」

      「・・・まあいい。ところで熊さんは、ドイツの作曲家でワグナーと
      言う人を知っているかい?」 
      「味噌汁に入れるんで?そんな菜は、まだ食べたことが無い。」 
      「・・・菜っ葉ぢゃあないよ。ドイツの有名な作曲家だ。この人の
      熱烈なファンをワグネリアンと言うんだ。」
      「なんだ、最初からそう言ってくれれば・・・」
      「おや、知っているのかい?」 
      「でも、都都逸の練餡(ねりあん)は、まだ食べたことが無い。」
      「練餡じゃあない、人だって言ってるだろう。まあ、熊さんに
      聞いた私が悪かった・・・」 
      「そうだ、おいらに聞いた大家さんが悪い。お詫びに何かおくれ。
      そうだ、都都逸の羊羹が食べたい。」 
      むちゃくちゃな話があったものでございます。 

      「この人のオペラに、ニーベルングの指輪と言うのがあってな、
      その中に『ワルキューレの騎行』というのがある。」 
      「あ〜、それなら知ってる。おいらのことだ。」
      「何のことだい?」 
      「ゆんべ奴らと、オケラで奇行というのが・・・」 
      「まあ、ある意味で言えてはいるが、奇妙な行動じゃあない。」 
      「じゃあ、船がどっかの港に・・・」、「それは寄港だ。」 
      「じゃあ、葉っぱの裏で呼吸・・・」、「それは気孔だな。」 
      「それなら、工事が始まる・・・」、「それは起工のことだろう。
      しかし、なんだって妙なことばかり知っているんだろうね? 
      そうじゃないんだ。騎行とは馬に乗って旅することだ。だから
      てっきり、ワルキューレは男なんだとばかり思っていたんだ。
      女は馬車だからね。」 
      「あ、言っちゃった。知らないよ。長屋のウーマンパワーたちが
      大騒ぎだ。」
      「なんだい」
      「いま、女はバカだって・・・」 
      「だれが、そんなことを言ってるんですか。ほんとうに。」 

      「ときに熊さんは、映画なんかは見たりするかな?」 
      「奢る平家のなんとやらってやつですか?」 
      「おやおや、ずいぶん学のあることを言うね。でも栄華じゃあない、
      分かりやすく言えばテレビのでかいやつだ。」 
      「ああ、例の・・・、絵いが動くやつね。」
      「洒落かい?この曲はな、フランシス・コッポラてえ監督の地獄の
      黙示録という映画の中で使われた、とても有名な音楽でもある。」 
      「フラメンコでカッポレの地獄の朴念仁、そりゃ、さぞかし疲れ
      そうな、筋金入りの無愛想だ。」 
      「良く聞きなさいよ。フランシス・コッポラ監督の地獄の黙示録と
      いうんだ。」 
      「へ〜、目次録ってえと、目次ばかりを集めた本のことですか?
      目次録の目次って〜のは、一体どんな目次なんでしょうかね?」 
      「何を訳のわからないことをいってるんだ・・・」 
      「いや、言ってる自分もさっぱり意味がわからねえ・・・」 

      「あきれた人だね。だが調べて見ると、たしかに天駈ける乙女だと
      書いてある。何しろ、大家と言うのは長屋の生き字引。百科事典、
      エンサイクロペディア・ナガヤーノ だ。
      うっかりすると、危うく私の方が恥をかくところだったと思ってな、
      ほっと胸をなでおろしていたところだったんだ。」 
      「長屋〜のってんですか、舌かみそうだ。ところで大家さん。」 

      「なんだい、急に改まって。びっくりするじゃあないか。」 
      「大家さんの話はいつも長いが、今日は一段と長い。」 
      「それは申し訳がなかったね。」 
      「実は、いつになったら話が落ちるのかとハラハラしながら待って
      いるんですがね、落語で落ちが無いってえのは、なんだか心持が
      さっぱり落ち着かない。」 
      「熊さん、良いところに気がついた。しかし、これにもちゃんとした
      理由(わけ)がある。」 
      「まさか、そそっかしいから落ちをどこかに落としたなんて言う落ち
      じゃあないでしょうね。」 
      「いやいや、これはこれで良いんだ。そそっかしい人と言うのは、
      落ち着きが無い。落ち着かない。つまり落ちが付かないんだ。」 

      お後がよろしいようで・・・ 

      by 虹魚亭雲竹 
                                   2005.05.04-2
     
     ※この噺は、2004.09.01のキャラプロ掲示板に投稿したもの。
     うっかりミスの言い訳のために、慌てて創って書き込んだもので、
     むやみに、長い言い訳でした〜
     消えて無くなる前に救出し、若干の手を加えて収蔵しました。

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