ウウェペケレ(昔話)T 『洞爺湖』

 

 
  むかし、西のコタン(村)の優れたオツテナ(むらおさ)には二人の息子がおった。
 兄は何事にも優れ、何でもたったの一度で覚えたが、弟は何をやっても何を教え
 ても、さっぱり出来る様にはならんかった。
 
  成人の朝、オツテナは弟を呼んで言った。「お前は、人一倍立派な身体と容姿を
 持っている。しかし、もう、お前を家に置いておくわけには行かない。」そう言って、
 エムシ(刀)を与えたんださ。
 弟は、自分が居ることで父や兄に迷惑をかけてはいけないと悟り、一人で旅に出る
 事にしたんだが、これとて行く当てがある訳もない。
 
  とぼとぼ歩いて行くと、ポロペツ(大きな川)のほとりに出たんだと。すると、そこに
 はやはりエムシを持った、自分と同じ年頃の美しい若者がおった。若者は弟を見る
 とニコリと笑いかけ、やおらエムシを抜いて斬りかかって来た。弟もエムシを抜き、
 一太刀、二太刀切り結ぶと、若者はひらりと風の様に舞い上がって向こう岸に舞い
 おりた。負けてなるかと弟も飛び上がると、やはり風の様にひらりと飛んで向こう岸
 に舞いおりた。そこへすかさず若者が斬り込んできたので、弟は風の様にひらりと
 舞い戻ったが、若者もそれを追いかけてひらりと舞い戻った。それから、何度と無く
 切り結んだんだんが、さっぱり決着がつかんかった。
 
  すると突然、「どうか話を聞いて欲しい」と若者が話しかけてきたんだと。「自分は、
 あるコタンのオツテナの末子だが、何をやっても巧く出来なかったので家を出たの
 だ。あなたもそうだろう。」と言った。
 
  そしてここまで来た時にサンピタラ(川の神)に逢い、あなたが来ることを聞いた。
 さらに、ここからずっと先にアプタ(虻田)と言うところがあり、そこには大きなトー
 (湖)があるが、そこを守るトーカラカムイ(湖造神)がいなくなってしまったので、
 そのトーを守らせるために私達が選ばれたこと。私達が家から出されるようにした
 のも、斬り合いをしたのも「腕を試したい」と言うサンピタラの考えであったこと。
 二つの瓢箪に入った神酒が授けられたことなどを話したんだと。
 
  6日6晩、若者二人は歩き続けてアプタのトーに着いた。湖畔に腰を下ろして神酒
 を酌み交わすうちに、不思議にも段々と神通力がつき、人間の国も神の国も良く
 見渡せるようになった。
 
  二人は飲み終わって空になった瓢箪をトーの中に投げ入れた。すると、たちまち
 そこに大小四つの小山が出来て中島となった。渡ってみると、そこには二人の住む
 小金造りの家が建ち、家の中には美しい宝物が山とつまれていて、二人の美しい娘
 が出迎えてくれたんだと。二人の若者はそれぞれ妻に娶り、力を合わせてトーヤ
 (湖の岸:洞爺湖)を守ったんだと。

 ※異論・異説もあるでしょう。でも、私はこう聞いたんだから仕方が無い。
 ※エムシは、儀式用の装飾刀で本来は戦いの道具ではありません。

 洞爺湖データ
 
 直径約10Km、周囲約43Km、湖面標高84m、湖面面積70.7ku、最大深度180mの
 カルデラ湖で、中に4つの島がある。支笏湖と並んで最北の不凍湖であり、支笏
 洞爺国立公園をなす。


  子供の頃、二人が腰掛けて神酒を酌み交わしたのは洞爺村の「あけぼの」あたり
 での事だろうと漠然と思っていた。生まれ育ったのが洞爺村だから、子供の想像力
 では仕方がない。けれど本当はどこが舞台なのだろうか?洞爺湖温泉の辺りなの
 かソウペツ(滝のある川:壮瞥)なのか?
  ポロペツは長流川のことだと思っていたが、歩いて6日6晩もかかりはしない。
 いま思うとオサマンペツ(河口が平行して流れる川:長万部)かも知れない。う〜ん、
 疑問が増えてしまった。
 誰か、私に薀蓄を・・・!

 
  長流川の語源は「河口に芦の生えている川」。長流(osa
u)の字面と響きは、
 私のお気に入り。

 
 HOME | LIBRARY-TOP   
 

Copyright© 1989-2006 nijio All Rights Reserved.