にじお版 近未来イソップ物語 『ライオンとネズミ』

痴れ者「にじお」の近未来イソップ物語 『ライオンとねずみ』



   ライオンが気持ちよく寝ていると、何者かに眠りを妨げられた。ネズミが顔面を
   駆け抜けたのだ。いきりたったライオンはネズミを捕まえ、殺そうとした。 
   ネズミは、必死に哀願した。 
   「助けて下さい。助けて下されば、必ず恩返しを致します」 
   ライオンは鼻で笑ったが、ネズミを逃がしてやった。それから数日後のこと。
   ライオンは、猟師の仕掛けた網にかかって動けなくなってしまった。ネズミは、
   ライオンの声を聞きつけると飛んで行き、ロープをかじり切ってライオンを逃が
   してやった。 
   ネズミは、得意になって言った。 
   「この前、あなたは私を嘲笑しましたが、私にだって、あなたを助けることができ
   るのですよ」


   「そうだな、おまえは立派に恩を返してくれた。もう、これで貸し借りはなしだ。
   では、改めておまえを食うことにしよう」と、いうと、ライオンはねずみを捕まえ、
   一口に噛み砕こうとしました。
   「待ってください。私が使えるネズミだということは分ってもらえたでしょう」と、
   ねずみが言うと、
   「たしかに、おまえのおかげで命拾いした。だが、もう油断はしない。二度と、
   人間に捕まったりはしない」と、ライオンがいいます。
   「それはそうでしょう。あなたは賢い百獣の王なのですから」と、ねずみが言うと、
   「おだてたって無駄なことだ」と、ライオンは言いました。
 
   すると、ねずみは落ち着いた顔で、
   「あなたにとってシマウマやガゼルなら、それはご馳走でしょう。ウサギならば、
   おやつ程度にはなるでしょう。でも、こんなちっぽけな私などは、ポテトチップの
   かけらほどもありません。腹の足しにもなりませんよ」と、言いました。
   「それは、その通りだな。で、何が言いたいのだ」と、ライオンが聞きました。

   「人間だけではありません。いつ何どき、何が起こるのか分らない世の中です。
   そこで、私をいざというときの、保険と考えてみてはどうでしょうか。安い保険料
   で、いざというときの安心が手に入るのですから」と、ねずみはいいました。
   「それもそうだな。おまえの言うことにも一理ある。では、そういうことにしよう」
   と、ねずみを放してやりました。

   「やれやれ、危ういところで命拾いをしたものだ。しかし、あの気まぐれで尊大な
   ライオンのことだ。それこそ、いつ気が変わって食われないとも限らない・・・」
   そう言うと、ねずみは一目散に猟師の家に走りました。そして、猟師にライオン
   のねぐらの場所を教えました。
   猟師は、ライオンの寝込みを襲い、ライオンの家族も一網打尽に捕らえました。
   捕らえられたライオンは、ねずみを見て言いました。
   「どうした、お前は俺の保険じゃなかったのか。俺を助けるんじゃなかったのか」
   すると、ねずみは、
   「昨夜、私は猟師の家で罠にかかり、あやうく死ぬところでした。そこで猟師に、
   あなたのねぐらを教えることと交換で、命を助けてもらったと言うわけです。
   こちらが破綻するような事態になれば、保険だって年金だって、自分が優先
   です。先に死んでしまっては、保険の役目を果たせやしませんからね。これ
   が、抜本改革というやつです」と、ねずみは、当然だという顔で言いました。

 
   理不尽な理由で為政者に苦しめられるのは、常に善意の国民である。
   そして、選挙の時に、「助けてください」と言う政治家先生に、いざという時には、
   困った国民を助けてくれるだろうと期待することは、賢明ではない。


                                             2006.08.21

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