にじお版 近未来イソップ物語 『ライオンの御代』

痴れ者「にじお」の近未来イソップ物語 『ライオンの御代』


   野や森の動物たちは、王様にライオンを戴いていた。王様ライオンは、残酷な
   ことを嫌い、力で支配することもなかった。まさしく、公正で心優しかったのだ。 
   ある時、鳥や獣たちの会議が開かれた。そこで王様は、次のような宣言をした。 
   「共同体の決まりとして、・・・オオカミと仔ヒツジ、ヒョウと仔ヤギ、トラとニワトリ、
   イヌとウサギは、争わず、親睦をもって、共に暮らすこと・・・」 
   ウサギが言った。 
   「弱者と強者が共に暮らせるこんな日を、私はどんなに待ちこがれたことか…」 
   ウサギはそう言うと死にものぐるいで逃げていった。


   王様ライオンの威光が、王国の隅々まで行き届いていましたので、オオカミは
   その威光を恐れ、仔ひつじを襲うことはありませんでしたが、日に日に痩せて
   ゆきました。
   それを見た仔ひつじが、無邪気に言いました。
   「どうして、オオカミはこんなにおいしい草を食べないの、食べればいいのに」
   「俺達の胃や腸は、草を消化するようには出来ていないんだよ」と、オオカミは、
   答えました。

   そんなある日のこと、仔ひつじが一匹、オオカミのもとから姿を消しました。
   怒った王様は、国中のオオカミを調べましたが、仔ひつじを襲ったオオカミは、
   ありませんでした。仔ひつじは、神隠しにあったものとして処理されました。
   またある日、今度は、仔ヤギが三匹も行方不明になりました。
   王様は、国中のヒョウを調べたのですが、やはり仔ヤギを襲ったヒョウは見つ
   からず、今度も、神隠しにあったものとして処理されました。
   間も無く、ニワトリが十羽も見えなくなりました。こんども、ニワトリを襲ったトラ
   は見つかりませんでしたので、やはり、これも神隠しとして処理されました。

   ある日、今度は自分の番では無いかと恐れたウサギが、王様に訴え出ました。
   「この国では、王様の威光にだれも逆らうものはおりません。確かに、オオカミ
   もトラもイヌも、パートナーを襲ったものはありません。でも、何か変です」と、
   言うと、こんなことを王様に耳打ちしました。
   「妙なうわさがあります。それは、仔ひつじは、オオカミによって横流しされ、
   オオカミと手を組んだヒョウによって食われたらしいと言うものです」

   それを聞いた王様ライオンは、
   「確かにそれなら、仔ひつじが消えたときに、いくらオオカミを調べても、仔ヤギ
   の消えときにヒョウを調べても、ニワトリの消えたときにトラを調べても、犯人は
   見つからないはずだ。そうだ、きっとそうに違いない」と、激怒しました。
   
   「今後、もし、仔ひつじの姿が消えた場合は、オオカミにその責任をとらせる。
   以下、ヒョウもトラも、イヌも、みなそれぞれのパートナーを必ず守るように。
   結果には責任を持つように」と、王様ライオンは、おふれを出しました。
   誤って傷をつけたりするのはもちろん、病死させても厳しく罰せられるのです。
   連帯責任とお互いを監視するために隣組が組織され、密告が奨励されました。
   疑心暗鬼を生じる監視社会、肉食動物に対する恐怖政治が始まったのです。

   でも、そんな政治は長くは続きませんでした。やがて、オオカミやヒョウ、トラに
   イヌ、キツネやネコも含め、肉食動物は、みんな過労とストレス、さらに寝不足
   と栄養失調で次々と死んでしまったのです。
   するとどこからか、神隠しにあったはずの仔ひつじや仔ヤギたち、ニワトリたち
   が姿を現わしました。神隠しは、ウサギの仕組んだ狂言でした。
   そうです、王様ライオンは、ウサギにまんまとだまされてしまったのです。
   頂点と基部を残し、その他の部分を失ってしまったのでは、ヒエラルキーなど
   存在出来るはずもありません。頂点を除けば、あとは皆平等になるのです。
   こうして王政は打倒され、草食動物による共和制の世の中となりました。


   為政者の心の問題や趣味に付き合わされるなら、国民は堪ったものじゃない。
   心の問題だというなら、自分の心に秘めるがいいし、趣味なら巻き込むな。

 
  やはり私は、ニヒリズムに冒されているのだ。そうに違いない。

                                             2006.08.27

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